戦略的連携とDX 第7回「ITが企業パフォーマンスに与える影響」

中小企業の生産性を上げるために、ITに投資して有効活用しましょう、ということは随分前から言われてきました。結局のところ、企業成果に対するITの効果はどうなんでしょうか。これまで多くの研究がIT投資と競争優位との間に直接的な関係は見出せないという見解を示していて(Levy, Powell and Yetton, 2002;岸・相原, 2004;遠山, 2005;仲野, 2013, 2015)、今ではこうした考えが概ね共通認識となっています。

いくつかの議論を整理してみましょう。「インタンジブル・アセット」でお馴染みのBrynjolfssonは、企業競争力の優劣を決める生産性が、物的なIT資産よりも組織的資産のような見えざる資産に支えられていると明確に言っています(Brynjolfsson, 2004 CSK訳・編, 2004)。遠山(2005)は、IT投資よりもその活用能力であるITケイパビリティが重要であるとより踏み込んでいます。ただし、ITケイパビリティもまた競争優位の源泉としては直接的に貢献するものではないという認識のようです。向(2011)は、ITの優位性は、市場から容易に調達できるITの導入からはもたらされないとした上で、ITによる競争優位の確立のためには、時間的な経路を通して機能するITメタケイパビリティ(ITをビジネスの中に組み込み、成果に結びつけていくケイパビリティ)が重要であると説明しています。高橋(2011)は、幅広い産業においてIT投資で成長への復帰可能性がありうるが、ポイントはIT投資よりも、それと組み合わせる無形資産の蓄積であると分析しています。

こうした議論から見えてくることは、競争優位に影響を与えるのはITそのものではなく、ITにまつわる何らかの無形資産であると考えられていることです。DC(ダイナミック・ケイパビリティ)はそのような無形資産の一つであると考えます。ITにDC論の考え方を取り入れたIT-enabled DCと呼ばれる概念を用いた研究が進められています(Pavlou, 2004; Roberts and Grover, 2012)。例えば、Mikalef and Pateli(2017)は、ITの活用能力を「感知」、「調整」、「学習」、「統合」、「再構成」の5つの下位概念で構成し、IT-enabled DCが競争優位に対してプラスの影響を与えることを定量的な分析により確認しています。

本研究では、上述のIT-enabled DCを参考にしてITが競争優位に与える影響、すなわちDXの効果を分析対象に加えました。これは最近の中小企業のDX研究のなかでは特筆できる点だと思っています。

Brynjolfsson, E.(2004), CSK訳・編(2004)『インタンジブル・アセット: 「IT 投資と生産性」 相関の原理』ダイヤモンド社.
Levy, M., Powell, P., & Yetton, P.(2002)The dynamics of SME information systems. Small Business Economics, 19(4), 341-354.
Mikalef, P., & Pateli, A.(2017)Information technology-enabled dynamic capabilities and their indirect effect on competitive performance: Findings from PLS-SEM and fsQCA. Journal of Business Research, 70, 1-16.
Pavlou, P. A.(2004)IT-enabled dynamic capabilities in new product development: building a competitive advantage in turbulent environments (Doctoral dissertation, University of Southern California).
Roberts, N., & Grover, V.(2012)Leveraging information technology infrastructure to facilitate a firm’s customer agility and competitive activity: An empirical investigation. Journal of Management Information Systems, 28(4), 231-270.
岸眞理子・相原憲一(2004)『情報技術を活かす組織能力 ITケイパビリティの事例研究』中央経済社.
高橋浩(2011)「産業アーキテクチャー視点からの日米IT投資分析と次世代IT活用戦略:ダイナミック・ケイパビリティ論からの示唆」『年次学術大会講演要旨集』研究・技術計画学会(26), 97-100.
遠山曉.(2005)「ITケイパビリティの可能性と限界 (<特集>ITとダイナミック・ケイパビリティ)」『オフィス・オートメーション学会誌』26(1), 10-16.
仲野友樹(2013)「中小企業における情報システムの戦略的活用とその活用意識: 全国 778 社を対象としたアンケート調査に基づく分析」『戦略研究』(13), 119-150.
仲野友樹(2015)『情報システムの高度活用マネジメントの研究: 中小企業のIT活用をどう促進するか』芙蓉書房出版.
向正道(2011)「競争優位とITメタケイパビリティ: セブン-イレブンを通じた情報システム部門の組織能力に関する検討」『経営情報学会 全国研究発表大会要旨集』2011, 21-21.