戦略的連携とDX 第18回「戦略的連携の実践的含意」

本研究の分析から得られた重要な含意は、中小企業が戦略的連携を推進する際に、連携に関わる様々な活動の中でITを有効に活用することが、自社の競争優位形成を後押しするという点です。

「中小企業は連携活動でITを使うと強くなる」です。

これまで競争優位の持続性が重視されてきましたが、近年ではその前提自体に疑問が投げかけられています。D’Aveni(1994)は、企業間の競争が激化する「ハイパー・コンペティション」の時代においては、持続的な競争優位を目指す戦略思考よりも、一時的な競争優位を次々と構築し、それらを連鎖させることの重要性を指摘しています。また、McGrath(2013)は『競争優位の終焉』の中で、次のように述べています。「本書では、持続する競争優位ではなく、一時的競争優位の力学について論じる。それが示すのは、競争優位がつかのまのものでしかない時代の新たな戦略的論理―どこで、どう競争し、どうやって勝つか―であり、ある一時的な優位性から別の優位性の波に乗り移れるようになった企業から何を学ぶかということだ」として、持続的競争優位から一時的競争優位への発想転換の必要性を強調しています(McGrath, 2013)。

本研究では、中小企業の戦略的連携が競争優位に影響を与えるプロセスを定量的に分析しました。その結果、戦略的連携に積極的に取り組む企業ほどITダイナミック・ケイパビリティ(IT-DC)が高い水準にあり、IT-DCが競争優位に正の影響を与える「ITパス」の存在が明らかになりました。ITパスには、競争優位へ直接作用する経路と、組織機敏性を介して間接的に作用する経路の2つがあります。これにより、IT-DCは自社の競争力を高めるだけでなく、環境変化への対応スピードも向上させていることが示唆されます。

このような影響プロセスは、一時的な競争優位の連続性を生み出す能力の源泉となり得ると考えられます。中小企業がハイパー・コンペティションの環境を生き抜くためには、外部の経営資源を取り込む際に、感知・学習・再構成というダイナミック・ケイパビリティ(DC)の観点からITを効果的に活用することが重要です。

D’Aveni, R. A. (1994). Hypercompetition: Managing the Dynamics of Strategic Maneuvering.
McGrath, R. G. (2013). The End of Competitive Advantage: How to Keep Your Strategy Moving as Fast as Your Business.