本研究の分析では、戦略的連携から組織機敏性を経由するパス、いわゆる「機敏性パス」による競争優位への影響が負の効果をもつ可能性が示されました。これは、戦略的連携から組織機敏性へのパス係数が負に推定されたためです。
この負の推定の背景には、連携に関連する役割分担や利益配分などの調整活動が、組織の意思決定や動きを鈍らせている可能性があります。連携を推進するうえでの調整負荷が増えることが、組織機敏性の発揮を妨げていることが考えられます。もしこのような連携に伴う足かせとなる要因を取り除き、組織の負荷を軽減できれば、機敏性パスの効果は改善し、ITダイナミック・ケイパビリティを含めた総合的な効果も高まることが期待されます。
また、別の要因として、調査票の設計による回答バイアスの可能性も考慮すべきです。本研究では組織機敏性を測定する際、業務上の調整スピードに関する5項目を用いています。このため、回答者は戦略的連携に関わる活動よりも、日常業務における調整をより強く意識して回答した可能性があります。その結果、推定値に歪みが生じている可能性も排除できません。
これらのことから、組織機敏性が競争優位に与える影響は単純ではなく、連携の質や組織の調整負荷、調査方法などの影響も踏まえて慎重に解釈する必要があります。