最終回は、本研究で到達した場所を確認するため、残された二つの課題について書きます。
一つ目は、定量分析だけでは把握できない競争優位の経路依存性を明らかにするため、定性分析が必要であることです。企業ごとに異なる歴史やビジネスシステムの独自性(向・根来, 2007)や、IT活用の具体的なプロセスなどは、平均的なデータだけでは十分に説明できません。石坂(2012)が提案するように、ダイナミック・ケイパビリティ(DC)の発揮過程を質的情報で補完し、現実的な分類や活用の「使い時」を整理することが今後の課題です。
二つ目は、環境変化の認識から競争優位に至るプロセスの時系列的な解明です。本研究はクロスセクション・データに基づいているため、長期的な因果関係を十分に特定できませんでした。パネルデータや経年変化の追跡(藤本, 2003; Eriksson, 2014)、長期分析の工夫(福澤, 2012;佐々木, 2018)が今後求められます。
今後は、これらの課題に取り組むことで、中小企業の戦略的連携やDC研究の理解がさらに深まることが期待されます。
向正道・根来龍之『経営情報システム』有斐閣, 2007年
石坂健一「ダイナミック・ケイパビリティ研究の展望」『組織科学』46(2), 2012年
藤本隆宏『能力構築競争』中央公論新社, 2003年
Eriksson, T. (2014). “Processes, antecedents and outcomes of dynamic capabilities.” Scandinavian Journal of Management, 30(1), 65–82.
福澤光啓「ダイナミック・ケイパビリティの理論的発展」『国民経済雑誌』205(3), 2012年
佐々木聡「ダイナミック・ケイパビリティと実証分析」『国民経済雑誌』218(3), 2018年